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偉大な岩「ウルル」に触れた日 その6/完 [あいうえおーすとらりあ]

  

  午前4時、ガイドが各テントを回ってメンバーを起こしてまわっている。内陸だから夜は寒いよ、という知人の言葉を真に受けて長袖の上着など持ってきていたのだが、熱帯夜のような暑さのままでなかなか寝付けなかった。やっと涼しくなり始めたと思ったら起きる時間だった。

 強い風が雲を吹き飛ばし、満天の星空だった。地面に寝転がって眺めていると体が星に包み込まれて浮き上がるような感覚を覚えた。ゆっくり眺めていたかったがその時間はない。急いで朝食を済ませ、それでも予定より遅い午前5時に、ウルルに向けて出発した。

 夜明け前の大地に、ウルルは昼間とは違った顔を見せていた。静かに日の出を待つその姿は、どこか近寄りがたい厳しさと同時に、懐かしさを感じさせた。バスの中は無言で、みなじっとウルルを見つめていた。

 午前6時ごろ、地平線のかなたから日が昇り始めた。日射しは一直線にウルルを照らし、柔らかな岩肌が輝きを増していく。刻一刻と陰影を強め、丁寧に磨き上げた彫刻のような優美な姿に変化していく。空と太陽と大地、ウルルは三つの大自然を結びあわせた美しさの原点だった。

 バスに戻ると、ガイドもウルルをじっと眺めていた。素晴らしい体験だった伝えると、「そうでしょう」と得意げに笑った。

 ツアーはウオーキングコースの始点へと移動した。この日は風が強く、ウルル登頂は禁止になっていた。ウルルの登山道はむき出しの岩肌に鎖がついているだけなので、風、雨、強い日射しなどの気象条件ですぐに閉鎖となる。登頂できる日は年間で100日足らずらしい。こうした条件の厳しさに加え、アナングの反対にもかかわらず、登山希望者は後を絶たない。登山口には、数ヵ国語で「登らないで下さい」とはっきり書かれている。それを見てアナングの主張に理解を示したり、そこから見通せる登山道の険しさに恐れをなしたりして諦める観光客も中にはいるが、実際は7割以上が登るのだという。ガイドは「ぼくは登ったことがないし、登るつもりもない。聖地だからね」と話していた。

 ウオーキングコースは1周約9キロ。ウルルの周囲を歩く。平坦な何でもない道のりだが、午前7時を過ぎると、もう気温がぐんぐんと高くなっていく。風があったのが幸いだったが、到着した日に味わった過酷な暑さが頭をよぎる。歩き始めてみると、暑さと乾きとハエはやはり予想通りだった。すかさず、準備していたハエよけネットをかぶってみるが、効果はあるものの、いまひとつ楽しめない。サングラスをかけ、帽子をかぶり、その上からハエよけネットをかぶると、その怪しげな外見もさることながら、視界が非常にわずらわしいのだ。結局、ネットを時折脱いでは、ハエに襲われるという繰り返しだった。

 このときの写真は一枚も無い。ウルルはカタジュタと違い、アナングの主張にそって写真やビデオ撮影が禁止されている(ウオーキングコース内のみ。遠方からは撮ってもよい)。違反者には最高5500ドル(約50万円)の罰金が科せられる。商業目的で撮る場合は正規の手続きを踏まなければならない。それでも無断で撮る観光客は後を絶たず、インターネットをちょっと検索してみると、禁止区域で撮った写真をアップしているホームページやブログがすぐに見つかる。どの宗教施設や聖地にもアナングと同様の理由で撮影を禁止している場所はいくらでもあり、それは遵守する人たちが、アナングの主張には理解を示さないのだ。

 それはさておき、コース内では、アナングが数千年前に描いた壁画や、大切に守ってきた小さな池などを見ることができる。また、コースはほとんど砂地なのだが、たまに岩肌がのぞいていることがあり、地上に出ているウルルが”氷山の一角”であることが実感できる。

 近くで見るウルルは、ところどころ破裂したような穴があり、その麓に巨大な岩が転がっている。これは、ウルルの内部に閉じ込められている水と、直射日光が照りつける岩肌の温度差の影響で岩がはじけたためなのだという。その穴に風が吹き込み、「ヒュー。ヒュー。ヒュー」と独特の音色が聞こえてきた。最初は低く、次はやや高く、最後は高音。ウルルの真ん中にはアナングの祖先のひとつで「クニヤ」と呼ばれる蛇が住んでいると考えられている。独特の音色はクニヤの話し声だったのかもしれない。

 ツアーを終え、ホテルに戻った夕方、突然、雷が鳴り響き、叩きつけるような大雨になった。空が裂けるかと思うほどの大きな雷で、大地もウルルも人も、何度も何度も真っ白に照らされ、みな、言葉もなかった。


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