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向田邦子 果敢なる生涯 [レビュー]

 世田谷文学館で27日まで開かれている企画展のタイトルです。「美しくなくてもいい、最後まであきらめず、勇猛果敢に生きてやろう」。エッセイから引用したキャッチコピーが光ります。向田邦子が飛行機事故で亡くなってから25年。生誕地の世田谷でその生涯を振り返る企画です。

 向田邦子のエッセイを初めて読んだのは中学1年生の時でした。推薦図書かなにかに、『父の詫び状』と『眠る盃』が選ばれていて、それを見た父が文庫版を買って来たのでした。
 思春期の子どもが親から渡された知らない作家の本を素直に読むはずもありません。向田邦子が脚本家であることも、直木賞をとったことも、飛行機事故ですでに亡くなっていることも知らなかったのですから、興味のわくはずもありません。そんなわけで、しばらくほったらかしにしていたのです。

 しかし、元来の読書好きで濫読の盛りですから手持ちの本はあっという間に読み終えてしまいます。ある日、ついに何も読むものが無くなって、これでも読んでみるかという具合に『眠る盃』を手に取ったのでした。
 読み出したらもう止まりませんでした。向田邦子が書いた大人の世界の機微など、中学生に分かるはずもありません。しかし、大人の入り口にあって、「大人とは何か」という”謎”と葛藤していたさなかです。読めば答えにたどりつけるような気がして読み進んだのでした。

 2冊ともすぐに読み終え、小遣いをはたいて次々に”向田邦子シリーズ”をそろえ始めました。何度も何度もくり返し読み、タイトルと最初の1行で、内容と構成をすぐに説明できるほどになりました。
 自立とは何か、暮らすとは何か、譲るべきものと譲ってはならないものの境界線。「矜持」という概念を知ったのもエッセイからでした。ほかにもさまざまなものの見方、考え方、そしてそれらをいかに表現するか、簡潔でビジュアルな文章技術も向田邦子のエッセイから学びました。節目、節目に読み返し、自分がどこまで成長したか、どういうふうに成長しているかを確かめる基準でもありました。

 『夜中の薔薇』の中に、「手袋をさがす」というエッセイがあります。自分にあった手袋を見つけられず、手袋なしで過ごした22歳の冬をつづっています。それ以来(おそらく亡くなるまで)、向田邦子は手袋を探し続けたのでしょう。「美しくなくてもいい、最後まであきらめず、勇猛果敢に生きてやろう」。ベリーロールな日々は、この精神を出発点にしているのです。


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