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薬指>人差し指の人はお金持ち? [けっこう気になる]

狙ってるわけではないのですが、またしても、うへぇな実験を見つけてしまいました。オックスフォードに対抗したのか、今度の地雷原はケンブリッジです。イギリス、大丈夫なんでしょうか。

薬指の長い人は経済的に成功する、ケンブリッジ大が研究発表 【Technobahn 2009/1/14 23:31】

なんかもう、小指がピンッと立ってしまいそうな見出しです…。載せたのは、またもやアメリカの学術雑誌。『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』だそうです。ゴミ箱『PLoS』と違い、PNASは1914年の創刊だそうで。権威や格式はありそうな気配ですが、”ケンブリッジ”ってことで載せてしまったんでしょうかねえ。

研究発表を行ったのはケンブリッジ大学神経科学科のジョン・コーツ(John Coates)教授を中心とする研究グループ。

一般常識的には考えにくいが人差し指と薬指の長さを巡ってはこれまでも学術的な研究が行われ、この2つの指の長さはサッカーや野球など、スポーツの分野における才能と相関関係があることが判っていた。


↑そもそも、これが怪しいんですよね。ちょっと調べて見ると、確かに、ヨーロッパを中心に、薬指と人差し指の長さでなにかを言おうとしている研究が多いようです。

というのも、胎児の時に脳がたっぷりと男性ホルモン「アンドロゲン」にさらされた人ほど、薬指と人差し指の長さの差が大きいと結論づけた実験があるそうで。アンドロゲンは、自信、集中力、反射能力などにかかわるのだとか。ここまでは、普通に有益な研究だと思います。

ただ、そこから発展(こじつけ?)して、サッカー選手と一般人の「薬指:人差し指」を調べたりなんかしちゃったりしているようなのです。そんでもって、「薬指が長いとサッカーがうまい」とか、そんなふうな結論を出しては喜んでいたようなのです。

研究グループは改めてこの不思議な相関関係の真偽を確認するために、2つの指の長さがその人の成長にどのように影響を与えるか分析調査を実施。

「胎児のときの”ホルモンシャワー”の浴び方が、指の長さに影響を与えている」という研究をベースにしていたはずが、いつのまにか、「指の長さが、その人の成長に影響を与えている」という研究にすりかわってしまっています。

この2つをまとめると、「胎児のときの”ホルモンシャワー”の浴び方が、その人の成長に影響を与えている」という珍しくともなんともない地点にたどりつくわけですが、そんなことを気にしていては、金儲けも売名行為もできません。あえて、不思議がって調べてみる、それが出世の道なんでしょう。

このコーツ教授とかいう人、ずっと、薬指ネタで何匹目かのドジョウが釣れないか、狙ってたんでしょうね。アンドロゲンの作用に関連することがらで、サッカーと同じぐらい注目を集めそうなネタを探してたんだと思います。そんでもって、出してきた結論がこれ↓

その結果、少なくともイギリスにおける場合、人差し指に比べて薬指が長い人は成長した後に経済的に成功する可能性が高いことが判った

なんのこっちゃ?どういう実験でこの結論にたどりついたのかまったくわかりません。「経済的に成功する」もあいまいすぎて、なにがなんだか。

仕方がないのでほかのメディアをあたると、AFP通信が、こんなふうに書いていました。

薬指が人差し指よりも長い人には、トレーダーとしての資質があるとの研究結果が(中略)発表された。

おい!Technobahn!!でんでん中身が違うやんけ!!!っと、思わず怒りが。Technobahnの記事は素人くさいと、いつも感じていましたが、きっと元記事を日本語に訳す人が、ど素人なんでしょうなあ。

そんなヤツは放置プレイで、そのままAFPのほうを読み進めると、

研究チームは、ロンドンの金融街シティの素早い決断力と迅速な反射行動を必要とする取引に従事している44人の男性トレーダーを対象に、指の長さを計測し、これらのトレーダーの過去20か月間の取引の利益と損失を比べた。

とのこと。ものすごく限定された地域で、たった1職種について、わずか44人を、ほんの1年8ヶ月調べただけ。これでなんで、「薬指が長いとトレーダーの資質がある」ってことになるの???

そもそも、男性は薬指が長い人のほうが多い(男性ホルモンの影響で)。
そもそも、トレーダーという職業についている人は男性が多い(男性社会の影響で)。
以上のことから、「トレーダーの薬指が長い傾向にある」のは当たり前で、素質や才能とは関係ない

↑ってことぐらい、中学生でもわかると思いますが。

なんかもう、げんなりしますね。これが「科学」なんでしょうか。それとも、典型的な文系人間の私が、「自然科学」に幻想を抱きすぎているんでしょうか。


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とおりすがり

はじめまして。たまたま拝見させていただいた者です。
今日の朝のニュースでもこのネタをやっていて、何故か釈然としなかったのですが

>そもそも、男性は薬指が長い人のほうが多い(男性ホルモンの影響で)。
そもそも、トレーダーという職業についている人は男性が多い(男性社会の影響で)。
以上のことから、「トレーダーの薬指が長い傾向にある」のは当たり前で、素質や才能とは関係ない

これでスッキリしました!

この手の男性ホルモンが多い方が能力が優れているという最近の研究の数々にはウンザリしていまして
男脳、女脳など
女はコミュニケーション能力、つまりおしゃべりするしか能がないように言われているのが腹立たしかったんですよ。

これからもどんどんこういう男性の方が優れているという実験・研究が行われると思うと生物学的なものを盾にした新たな女性差別がおこりそうで怖いですね。

by とおりすがり (2009-01-15 18:53) 

rio

>とおりすがりさん、コメントありがとうございます。

ほんと、男女がらみの生物学的な話を、男社会の強化に利用しようとする人が多くてうんざりしますね。男社会は、女だけでなく、男にとっても大変なんだってことに、いい加減気づいてほしいと思います。

先週からNHKスペシャルが3回シリーズで、『女と男』をやっています。ここ10年の研究成果の報告、という主旨で、目新しさはそれほどありませんが、とてもよくできていて面白いと感じました。シリーズは今日が最終回なので、見終わったら、また詳細を書きたいと思います。

とても印象的だったのが第2回です。

男女の違い(脳も含めて)は、結果の優劣とは関係ない。男に有利なやり方、女に有利なやり方がそれぞれあるのに、男社会では、女は「男のやり方」で結果を出すことを求められる。だから、女が男より劣っているかのように言われてしまうのだ。

ということを、実験をまじえて説明していました。

全世界で政治家の半数以上が「おばちゃん」になれば、戦争は起きないんじゃないか、という笑い話がありますが、Nスペを見ていて、これって実はただの笑い話じゃないかもなあ、なんて思いました。
by rio (2009-01-18 17:33) 

生物系学生

はじめてですが投稿させていただきます。

原著論文をみますと、

Second-to-fourth digit ratio predicts success among high-frequency financial traders
人差し指と薬指の長さの比で、高頻度トレーダー間での成功が予測
できる

とあります。ですので「薬指が長いとトレーダーの資質がある」というのはメディアの拡大解釈に思います。また、米Science誌のpodcast(09/01/16)による著者へのインタビューでは、「ここでの高頻度とはデイトレーダーの事で、同じフロアにいるもっと長期的な投資をする人では別の結果がでるかもしれない」といっていましたので、そもそも一般的に解釈されるべきではないのだと思います。

本文の内容を見ますと、テーマがアンドロゲンのrisk-taking behaviorに与える影響ということですので、対象が男だけというのはしょうがないと思います。そもそもこのテーマが如何なものかというのはありますが。

次に、「人差し指と薬指の長さの比」ですが、確かに男では薬指優位なのはあたりまえで、筆者たちは0.9~1.02という幅を持った各人の指の長さの比(人差し指÷薬指)と各人の損益を見くらべています。その結果短いほど利益が大きいとしています。さらにアンドロゲン量が多い比ほど利益が増えること、その増加量は先程の比が小さいほど大きいという事を示しています。

少なくともここまでのデータではのページに書かれているような非難はあたらないように思います。また、サンプルが限定されすぎている事ですが、実験する側から見ると、状況が違いすぎるグループでは比較しようがないという事、「ホルモンから行動」という場合によっては倫理問題になりかねない実験である事、アンケートのような人数は増やせるが客観性も失なわれる方法は使いたくないという事からの結果でもあるようです(前述のpodcast)。ただし、気になるデータとして、比が小さいほど経験年数も長いというものがありましたが、これは原因なのか結果なのかは判然としません。私見ですが、一般に試行数を上げれば何かしら有意差がでてくるものです。実際マウスの実験などではn=20を越えると、「無理矢理有意差をひねりだしていないだろうか」と思ってしまいます。

以上から、今回の実験結果は、十分実験状況を説明した上での限定的な結果として解釈されるべきで、AFPのような軽々しい一般化は問題だと思いました。今回の論文で私もPNASの株をかなり下げましたが(こういうテーマを載せる自体どうなのでしょうか)、論文自体への誤解があるかもしれないと思ったので投稿させていただきました。

失礼しました。

by 生物系学生 (2009-02-06 11:09) 

rio

>生物学系学生さん、詳細な解説をありがとうございます。

私はこのブログで何度か宣言しているのですが、根っからの文系人間です。なので、書いてくださった解説をどこまで理解できているか自信がないのですが、大意はつかめたと思っています。

ほかのブログ記事でもちょっと同じことになっていて、記事の書き方を変えなければいけないかなと反省しています。

このブログで、私は基本的に、「メディア情報は正しい」ということを前提にしつつ、メディアリテラシーの目線を忘れないように気をつけながら記事を書いています。

マスコミ情報がしょっちゅう間違っていることはよくわかっているのですが、そこに足を踏み入れすぎると、「すべてを疑え」という哲学の世界になってしまって、収拾がつかなくなるからです。

自分で調べのつくことに関しては、インターネットを調べたりもしますが、理系の論文となると、それを読んでマスコミ情報が正しいかどうかを検証するまではさすがにできません。なので、年収1000万円以上もらっている記者たちに、もっとがんばって記事を書いてもらいたいと思います。

それはさておき、この実験ですが、私がブログで取り上げた理由はご指摘のとおり「倫理問題になりかねない実験」だからでした。

私は「差別」と、そこにつながるものにものすごく強い警戒心を抱いています。研究者の側にその意識がなかったとしても、今回の研究のように「薬指が長い人は金持ちになる」というように短絡され、世界中に配信される時代です。最初にコメントを投稿された方のご意見と、同じことを私も感じます。

「AFPのような軽々しい一般化は問題」という点について、私も同感です。ただ、AFPと同じぐらい研究者(発表者)にも問題があると思うのです。

こうした学術研究は、記事化の際に詳細なプレゼンが行われているはずです。記事を書く人間は、それなりに科学を学んだ者であったとしても、研究者の専門性にはついていけません。なので、記事の表現はこれでいいかどうかを必ず研究者に確認しているはずなのです。

↑ここでいつも、行き違ってしまうんですね。「これでいいか」と聞かれたときに、研究者としてはなかなか「いい」とは言い難いと思うのです。時間をかけた研究を、たかだか数百文字で、しかも読者受けするように要約されるわけですから、「違うよ」と言いたくなる気持ちはわかります。

一方で、マスコミの側にすると、研究者の求める正確性にあわせていると記事が書けないわけですね。極端な話、論文を読んでくださいということになってしまいますから。

ということで、(AFPはちょっとわかりませんが)日本の取材現場では、研究者の側が自ら内容を要約し、見出しのようなものを立ててプレゼンすることが増えました。

その結果、研究者の側はマスコミ受けする(=記事化されやすい)ような見出しを立ててくるようになり、マスコミ側はそれに依存して、発表文を面白おかしく加工して済ませる、ということが当たり前になっています。

その伝言ゲームから判断するしかない一般読者・視聴者の立場からは、やっぱり、「マスコミちゃんとやれよ!」の前に、「なんでこんな研究やってんだよ!」という印象になってくると思うのです。

その次の段階として、「いや、研究を伝えているマスコミのほうもおかしいんじゃないの?」という発想が出てくると思うのですが、これは素人には無理です。そう思っても、調べようがない(調べても研究論文を理解できない)からです。なので、生物系学生さんのように、専門的な立場で解説してくださるととても助かります。

長々と書いてきましたが、もう一言。

>今回の実験結果は、十分実験状況を説明した上での限定的な結果として解釈されるべき

ということに、結果的にならず、そのまま世界中に配信されているということは、やはり研究者の側にも「それでよし」とする態度があったのではないかと感じます。

研究成果のマスコミ露出率は、少なからず研究予算の分捕りにつながっているはずですし、欧米なら寄付金の額にも関わってくるのでしょう。なので、ついマスコミに迎合してしまうところがあるのではないかという気がしています。
by rio (2009-02-06 22:27) 

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