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困ッタ夫ニ対スル妻ノ閉口 [レビュー]

Nスペシリーズをきっかけに、お気に入りの一冊を思い出し、久々に読み返しました。直接の関係はないんですけど、妙にはまるのですよ、これが。

大正時代の身の上相談 (ちくま文庫)

大正時代の身の上相談 (ちくま文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2002/02
  • メディア: 文庫
内容は、タイトル通り、大正時代の読売新聞に掲載された庶民の身の上相談です。読売は、いまでこそ発行部数(公称)が日本一ですが、当時(~戦後まで)は関東地方のローカル紙でした。なので、この本で紹介されている”お悩み”の主たちは、たぶん関東在住の小市民たち。下世話な話題がてんこもりで(←編者がそういうものを選んでいるのもあるでしょうが)、かなり笑えます。

お悩みに回答しているのは記者ですが、率直でかざらない一生懸命さがまた笑えます。当時の新聞記者のステイタスはかなり低かったようで、しかも、読売は”大衆紙”でしたから、ヘタに気取る必要がなかったんでしょうね。

たとえばこんな感じ。

ミカンを二十個一度に食べる夫 一カ月ニ一人デ五箱モ…… 
大正四年(一九一五)一月三十一日


私の夫は当年二十八歳で(中略)、毎朝、朝飯がまずいと言って食べません。ただ牛乳を一合飲んで出て行きます。午後四時半頃に帰宅して、夕食をすませるとミカンを一度に二十個くらい食べます。甘い物は食べませんが、何か衛生上悪いことはないでしょうか。私は昨年結婚したばかりで、夫の好みの食物がわかりませんが、非常に水菓子が好きなようです。今年になって、五箱もひとりで食べてしまいました。

<回答>
(前略)そうそうミカンばかり食べては体のためになりません。それゆえ、ミカンのほかにリンゴなども食べるようにお勧めなさい(後略)。

↑これ、お気に入りの一品で、何度読んでも笑えます。記者は、「衛生上」(=健康上)どうかと聞かれたので、仕方なく「リンゴも食え」と回答しているわけですね。でもほんとは、「夫」が朝ごはんを食べなかったり、ミカンをアホみたいに食ったりするのは、太字のことが原因のはずなのです。

Nスペでは「女は表情から感情を読み取る能力がすぐれている」とやってましたが、そうでない人もいるわけで。やっぱり性差よりも個人差のほうが大きいようですねー。がんばれ新婚!

ほかにも、
○「尻がでかい」と悩む少年
○不良少女から裸写真を送りつけられて進学に失敗した青年
○部屋中だけでなく子どもたちにまで消毒剤をふりかける潔癖症の妻を持つ夫
○医者として成功したが孤独だという独身・R35の女
など、大正時代の庶民も今と変わらずお悩みだらけです。

なのになぜか、つい笑ってしまうんですよね。他人の不幸は蜜の味だからでしょうか。それとも、大正時代の庶民のマジメさが、ちょっとうらやましいからでしょうか。

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コメント 8

machi

rioさん、こんにちわ!
嬉しくて思わずペンを取り(?)ました。
あたしも持ってるですよ、この本。書店で何度も立ち読みをして、買おうかどうしようか迷って迷って…結局買った、という思い出の本です(笑)。

相談の内容もさることながら、回答がツッコミ所満載なんですよね。
このくすぐったいキモチを他人にも味わって欲しくて、あたしの中では「声に出して読みたい日本語」(違)トップ5にランクインする勢いです。

いつの時代も迷える子羊は真剣ですよね。
自分のことはさておき、それを俯瞰出来る平和さというかのんきな感じがあたしのツボなのかなぁ。
ということは、今の時代の笑えないようなお悩みもいつか「ほのぼのするねー」なんて言われちゃう時代がくるんでしょうかね。
そしてこの本のおかげで、笑えないお悩みなだけにそんな未来人になった自分を妄想して解決していないのにほのぼのしてみる、という荒業を駆使できるようになりました。大丈夫か、自分!
現代、という事で言うと、中島らもの「明るい悩み相談室」はすでに名著ですね。
あ、チャンネルが違うか(笑)


by machi (2009-02-01 12:17) 

rio

>machiさん、お悩みを相談してるのに、やたらと叱られているのも笑えますよね。

大正時代といえば、デモクラシーやら言文一致やらと、なにかと現代日本の基礎ができた時代ですよね。そのためなんでしょうけど、悩んでいるはずの人たちから、一種の活気すら感じます。

そしてまた、独特の大正時代っぽい日本語が笑えます。「不安な日を送り悶え苦しんでおります」とか。私も人並みにいろいろ悩むことはありますが、もだえくるしんだことは無いような気がします。

中島らもの『明るい悩み相談室』も、全部そろえて保存版にしています。連載当時から、毎週楽しみに読んでいました。

中島らもが亡くなったあと、奥さんが『らも』というタイトルの本(暴露本?)を出しているのですが、それを読むと壮絶な人生だったんだなあと。「明るい~」は10年もつづいたのに、そういう部分がちらっとも顔を出さないですよね。すごいなあと思います。


by rio (2009-02-01 15:50) 

area71

この本は、明治時代の~、と合わせて好きでありますが、余計なものを加えず、当時の相談だけを羅列しただけでも読み応えがあると思います。


コメントはやるならrioさんがやった方が面白いでしょうね。
by area71 (2009-02-01 19:53) 

green

rioさん、はじめまして。
私も持っています!!
中島らもの『明るい悩み相談室』全巻も。
明るい~のほうは1年に1度くらいは読みたくなって、ひっぱりだして読んでいますが、大正時代~も読みたくなってきました。
明るい~で印象的だったのは、東マジメ西アホです。
悩み相談を送ってくる人が、東日本にすんでいる人がマジメな内容で、西にいくほどアホな内容が多いそうです。
ちなみに私は西日本在住です・・・。ははは。
いつか、「らも」が文庫になったら読みたいと思います。
by green (2009-02-01 22:56) 

rio

>area 71さん、ちくま文庫版では、あとがきでコメントが徹底的にけなされていて、ちょっと気の毒です。

たしかにコメントを書いているライターは、あんまり調べずに素人感覚で書いているようですが、それを学者が…。

解説をしている学者先生は、新聞に載っている身の上相談を貴重な学術資料と考えているようです。そういう部分は大きいと思いますが、ただ、すべての身の上相談が読者から寄せられたものとは限らないですからねえ。

もしかしたら、新聞社が創作したものもまじっているかもしれません。現代でもマスメディアのやらせや”過剰演出”、捏造や”創作”はあとを絶ちませんから。

中島らもが「明るい~」の連載を本にまとめた際に、「10年間で一度もやらせをしなかった」とわざわざ書いていることなどを考えても、「当時の一般人の平均的な実像を伝えている」(by 学者)のようにありがたがるのではなく、ただ、ウヘヘと笑うのがいいように思います。
by rio (2009-02-02 06:50) 

rio

>greenさん、コメントありがとうございます。

東マジメ、西アホ。ありましたねー。それと、オカンの投稿がおもしろくて、オトンからの投稿はマジメすぎて笑えないというのもありました。

いまでもよく覚えているのは、「じゃがいもにみそをつけて食べたら死ぬ」です。出版された本のあとがきでも書かれていますが、リアルタイムで読んでいたのでものですから。

らもは「人間は誰でも死ぬのだから、じゃがいもにみそをつけて食べると、いつかはきっと死ぬ」と回答したのですが、このレトリックが理解できない頭の固い人が日本中にいたようで(笑)

週刊誌(?)の取材に答えて、らもがじゃがいもにみそをつけて食べて見せた写真も、いまでも覚えています。

『らも』は文庫にならないかもしれませんね。何年か前に出版されたきり、そのままですから。それほど売れとは思えないですし。ちなみに私は、図書館で偶然、発見して読みました。
by rio (2009-02-02 06:57) 

ミウミウ

rioさん、こんにちわ。

記事を読んで、私も「らも」を思い出しました。名作「ジャガイモ味噌」は本当に傑作な回答でしたね~!「大正時代~」は、まだ未読ですので、ぜひ探して読んでみたいです!ご紹介ありがとうございます!


by ミウミウ (2009-02-02 15:55) 

rio

>ミウミウさん、私の中の「明るい~」ベスト3は、じゃがみそ、一筆書き(←一筆書きで書ける家を、二つ並べても一筆で書けるかどうか)、緊急車両の交差点問題(←十字路で、パトカーと消防車と救急車が向かいあったら、どれが優先されるのか)です。

どれも大きな反響を読んで、雑誌やテレビが後追いで取り上げていたように思います。一筆書きについては、学者がコンピューターで研究までしていたような。

こういうバカバカしいことを一生懸命考えてると、生きていくのがちょっと楽しくなる気がします。
by rio (2009-02-02 16:28) 

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