久間防衛相の原爆容認発言と靖国神社 （２）

こういうことを言うと怒る歴史学者もいるんだけど、歴史ってのは「物語」である。つまり、歴史ってのは「なにが起きたか」ではなく、「なにをどう伝えるか」の積み重ねで作られる。そういう意味では、自虐史観も”あらまほし史観”の変種である。彼らの”あらまほしい”姿は「反省している私たち」だ。そのために反省材料にできると思えば、玉石混交で「物語」を用意し、左翼系メディアを通じて流通させてきた。その手法の根本的な部分は、靖国神社とまったく変わらないのである。

ってなことを考えながら帰宅した。ここでやっと久間防衛相の話。「（原爆で）戦争が終わったんだという頭の整理で、しょうがないなと思っている。それに対して米国を恨むつもりはない」と述べたことで大騒ぎになっていた。ＮＨＫはこの前当選したばかりの田上富久・長崎市長を取材し、「（久間発言は）理由があれば原爆を投下していいということにつながる」とのコメントを取った。的確な批判だと思う。アメリカの原爆が「しょうがない」んだったら、北朝鮮のテポドンはどうなる？北朝鮮なりの論理があれば日本にテポドンを打ってもいいのか？

 野党は早速、政局化を図って久間の辞任を要求。安倍首相や太田・公明党代表が火消しに躍起となっているが、参院選を控えてこれは大打撃だろう。久間が所属する津島派（旧田中派）が”安倍おろし”の謀略を実行したのかとまで邪推してしまう。

それはさておき、かばった安倍ものけぞるほどに愚かだ。コメントを求められた安倍は「久間氏は米国の考え方について紹介したと承知している」などと間抜けな発言をし、またしても政権担当能力、危機管理能力がないことを露呈した。なんで久間が国内の講演会で、アメリカの”あらまほし史観”を紹介せねばならんのだ。しかも久間の発言は単なる「紹介」ではない。「米国を恨むつもりは無い」と自己の心情にまで言及しているのだから、これは久間がアメリカの”あらまほし史観”に洗脳されていると受け取るのが当然だ。「紹介」するだけでも神経を逆なですると思うけども、それよりも踏み込んで自身の心情として語ったから大騒ぎになったのである。火に油を注いでどうするんだよ。

今回の久間の発言は、イラク戦争を批判してアメリカ・共和党を怒らせたことへの失点を挽回する意味合いもあるのだろう。自民党内の一部に根強い（小泉・安倍も含む）対米従属意識がここにも現れている。そしてこの姿勢は、中国や韓国の反応を恐れる”自虐史観派”が必死に自分で自分を鞭打つ姿と同一である。さらに言えば、行くところまで行ってしまった”自虐史観派”の中にも、原爆投下を正当化する勢力があって、久間はこの発言で彼らと同一となったのである。

対中従属派の主張する”自虐史観”だけでなく、対米従属派の中にも”自虐史観”が存在することがはっきりした。靖国神社が妄想する”あらまほし史観”か原爆をも正当化する”自虐史観”か。日本人がもてる「物語」はこの二つしか無いのだろうか？

コメント 4

あちこちのブログを読んでると、「久間発言は安倍内閣が核武装化に踏み出したい気持ちのあらわれだ」と指摘している方がいました。なるほど。動機として説得力がありますね。
by rio (2007-06-30 23:50) 

追伸　
アメリカ下院本会議での「従軍慰安婦」決議可決を避けたい一心のつたない外交努力なのだろうか？という気もしてきました。
by rio (2007-07-01 00:33) 

言の葉ひとつ風船、が、ぽつんと爆ぜた。日本中、原爆許すマジ、の大誘爆。小池大臣任命の線香花火が、そのうち、ポチャンとおちて、……。衆参ねじれになったら、日本の政治は面白い紙芝居になるのかな。
by ほろ酔い (2007-07-03 18:49) 

ほろ酔いさん、コメントありがとうございます。

日本は言霊の国ですから、などとは申しません。しかし、辞任にまで至ったのは、発言直後からの対応の悪さで、国民、野党だけでなく、与党内からも批判が噴出したからです。

後任の小池百合子は、うかつな発言をすることはないでしょう。官僚をあごでつかう、テレビ映りだけを気にする、上昇志向が強すぎて人望が無い、など環境大臣だったころに官僚からいろいろ聞いたことがあります。はたしてきちんとリリーフできるでしょうか。って、さすがに参院選までのつなぎぐらいはできるか。
by rio (2007-07-03 19:45)