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日テレドラマ「私は貝になりたい」 [レビュー]

出演者の熱演でドラマとしては引き込まれた。

飯島直子の演技だけが平成って感じで、一人で子ども産んで海に入って死のうとしているのに、ふくよかな顔でメイクもバッチリってのはいけてないと思ったが。戦争モノやるときは女優さんはノーメイクで出るぐらいの意気込みを見せて欲しい。でもほかの人の演技はよかった。

印象的だったのは中村雅俊が演じた死刑囚が残した最期の一言
「二度とだまされて戦争へ行くんじゃないぞ!」

カネもコネも地位も名誉も無いただの庶民が、戦争では真っ先に死んでいく。軍隊では前線に送られ、非戦闘員であっても満足な食料や医療が得られず。一方で、旧日本軍の参謀だった人物の中には、大学長になったり企業の顧問をしたりで、カネも地位も名誉も保ったまま生き延びた、あるいは今も生き延びている人たちがいる。

この不条理はいつの時代のどの国のどんな戦争でも同じだ。だから、何も持たない庶民が戦争の犠牲にならないようにするには、権力にだまされないように目を光らせるしかない。権力者は戦争を「周辺事態」「集団自衛」「国際貢献」「駆けつけ警護」などいろいろに言い換え、めくらましを仕掛けてくる。だまされて戦争に巻き込まれたと気づいた時には遅いのだ。

それはさておき。今回の日テレドラマは、TBSの「私は貝になりたい」とは違い、加藤哲太郎の著書をもとにした自伝的ドラマだという点が売りだった。しかし、この「自伝的」というのがクセモノで、どこまでが歴史的事実で、どこからがドラマ的脚色なのかをあいまいにしたまま「事実っぽく」見せていたことに違和感が残った。

例えば、加藤は本当に捕虜殺害をしなかったのだろうか?劇中では、元部下が加藤の無罪を証言している。また、真犯人は別の部下の野村義直だということを明示している。加藤は野村と米軍管理下の精神病院で出会う。「野村は捕虜を殺害したことを言い出せず、そのことで自分を責め続けて発狂した」ということを向かい側の精神病患者から聞かされるのである。

この展開、脚色だったとしても嫌な感じだし、加藤がそう語っているのだとすれば「死人(この場合は野村)に口なし」だもんなあ。日テレがドラマの前に流した宣伝番組でも、加藤は収容所の待遇改善を進めた人道的な所長で、部下の犯罪をかばって逃亡生活を送ったとされていた。ちなみに、ウィキペディアには「捕虜を銃剣で処刑した」となっている。どっちが本当なんだろう?図書館に行って資料を探してみよう。

もう一つ、加藤の妹がマッカーサーに直談判をして、異例の再審が通ったという展開になっている。これは事実なんだろうか。だとすれば、加藤の父が作家・評論家として著名な人だったからという特殊事情抜きでは語れない。ドラマでは「父はだめもとであちこちに手紙を書き送った」という様子が一瞬だけ流されているが、その先は(またしても)ウィキによると、社会党の大物で首相も務め、弁護士資格も持っている片山哲をはじめ各界のお歴々なのである。なーんだ、やっぱカネとコネじゃないか。と、正直、白けてしまった。

捕虜殺害が加藤のまったくあずかり知らぬところで行われた部下の暴走なのであれば、加藤が問われるのは管理責任だけのはず。加藤の前後の所長は死刑を免れ、最高責任者の管理部長は禁固8年だったのだという。なのに加藤の再審の結果は終身刑だった(のち30年に減刑、結果的に10年で出所)。これは捕虜殺害の疑惑がぬぐいきれなかったということなのでは。この辺は裁判資料や再審資料を見てみないとなんともいえないと思うのだが、日テレは…見てるわけないよなあ。

見ている間と見終わったあとでの温度差が激しいドラマでした。

(追記)
番組HPの掲示板でこんな書き込みを見つけました。

甥さん 40歳~49歳 男 投稿日:2007/08/24 17:22:50

家族として、初めて事実に基づいた製作に期待します。
但し、家族も重要な題材でありながら、男兄弟が省かれているのが残念です。

つまりこのドラマは、加藤家からみた真実、ということでしょうか?


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コメント 6

 

実際の加藤は捕虜を2人殺してるんですよ。
by   (2007-08-25 11:09) 

rio

名無しさん、本当はどうだったのか私には知識がなさ過ぎていまのところ判断できません。そうおっしゃる根拠を示してくださるとありがたいです。
by rio (2007-08-25 15:03) 

 

捕虜処刑のことは、調べればウィキペディアにも書いてあります。
by   (2007-08-25 15:29) 

rio

記事に書いたとおりウィキペディアは私も見ました。ただ出典が明記されていないので根拠としては弱いですね。
by rio (2007-08-25 20:19) 

J

検索していて、こちらにたどり着きました。
つい先ほど録画していた「私は貝になりたい」を見たもので。
ドラマ放送前日、たまたまメイキングシーンの特番をやっていたので、見たのですが、ご存命である加藤さんの妹ご本人が出演されていて、マッカーサーのもとに嘆願書を持っていったお話をされていましたよ。
あれは実際にあったことのようです。
過去の日記に、コメントして、すみません。
by J (2007-09-06 17:50) 

rio

Jさん、コメントありがとうございます。

マッカーサーへの嘆願は本当のようですね。今回のドラマの原作になった著書が図書館でずっと貸し出し中、予約もたくさん入っていてなかなか読めません。本屋で少し立ち読みしたのですが。

まだ分からないことだらけなので、いずれ本を手に入れて読みたいと思います。
by rio (2007-09-06 21:19) 

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