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『杉田』 魔王が語る魔界の物語 [レビュー]

いまさらですが、杉田かおるが2005年に出した自伝…というより、”本人の手による本人”の暴露本を読みました。

杉田

杉田

  • 作者: 杉田 かおる
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2005/03
  • メディア: 単行本

この真っピンクな装丁にカバーもかけず人ごみの中で読んでいるわたしはそれなりに大人になったのだなあ、と思ってみたり(謎)

杉田かおるは以前、『すれっからし』という自伝…というより(以下略)を出しています。

すれっからし (小学館文庫)

すれっからし (小学館文庫)

  • 作者: 杉田 かおる
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 1999/03
  • メディア: 文庫

↑これもそれなりにすごい(他人には面白い)話です。ただまあ、想定の範囲内だよなと思わせる”子役の苦労話”だったので、『杉田』が発売されたときには「二匹目のドジョウか」と思って読まなかったのです。

それをなぜいま?実は先日、↓この本を読んだんですね。

文芸誤報

文芸誤報

  • 作者: 斎藤 美奈子
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2008/11/20
  • メディア: 単行本

以前にも少し書きましたが、斎藤美奈子の書評はたいてい読んでいます。いまの日本でもっともバランス感覚がすぐれている評論家のひとりだと思います。ベースにあるのは左派よりのフェミニズムですが、その手の臭気を出す人々とは一線を画していて、信頼を置けます。

ただ、『文芸誤報』そのものは、ほかの著書と比べてたいして面白くありません。朝日系列のメディアで連載した書評をまとめた本ですが”商品カタログ”の域を超えていないからです。ネームバリューにのっかったお手軽仕事に思えてしまうのが残念です。

それはさておき、この本で取り上げられていたうちの一冊が『杉田』だったんですね。いやー、たまげました。『すれっからし』では書かなかったことを書いた、というだけのことはあります。

『杉田』は大きくわけて3部構成になっています。

前半…天性の詐欺師である父親(実は養父)のせいで20代で1億円もの借金を背負う話
中盤…”ある教団”に入って広告塔になり、高揚感→疑問→絶望というプロセスを経て脱退する話
後半…日テレの24時間テレビで100キロマラソンを走ったときの話


文章は正直、うまくありません。時系列がばらばらで、話が行ったり来たり繰り返されたりして、読みづらいところもあります。奥書に「構成/文 由井りょう子」というクレジットが入っているのでゴーストライターの手が入っているんでしょうけど、わざと素人っぽさを残した(出した)のかもしれません。ただ、素人っぽいだけに、なかなかのリアリティーと迫力を感じます。

でもって、3部構成の話はそれぞれにつながっていて、その中心にあるのが「ある教団」です。本の中では一度もこの教団の固有名詞は出てきませんが、「創価学会」であることは誰が読んでもわかるように書かれています。

杉田かおるに借金を背負わせた養父は創価学会員で、実母は日蓮正宗の信者。ということが背景にあって、杉田かおる自身は、”子役上がり”で仕事がなくなった時期と事務所の移籍問題や借金が重なり、日蓮正宗に入信→創価学会の活動へ従事と突き進んでしまったわけです。

しかし、池田大作とその取り巻きの正体が見えてくるにつれ、心身に異常をきたすようになってしまいます。25歳のときの日記では「人間、死ぬことも、別れも、病気もこわくないけれど、思想のみだれによって形成された人間性ほどつらく、苦しいものはない」とつづるまでになります。自分の日記からの引用ですが、この一文は刺さります。

その翌年、1990年には、池田大作が宗門である日蓮正宗を非難し、日蓮正宗教が創価学会を破門するという事件が起こります。ここで完全に創価学会に見切りをつけた杉田かおるは、そこから何とか逃れようと苦しむわけですが…という展開。

↑この辺の細かいところはぼかされています。創価学会の黒幕とのコネを利用して逃げ切ったことは示唆されていますが、それ以上は謎です。ただ、総選挙が迫っているいまこれを読むと、間違っても、公明党を政権与党にしておこうなんて考えなくなると思います。

杉田かおるは、テレ朝『ロンドンハーツ』で一時期よく、「組織の人間と戦っている(狙われている)」と冗談っぽく言っていました。それはきっと創価学会のことで、半分以上はマジ話だったんだろうなと想像できます(もしかしたら現在進行形かもしれませんが)。

で、びっくりしたのが100キロマラソンの話です。私は、バラエティの汚れキャラで再ブレイクに成功した杉田かおるが100キロを余裕で完走した(ように見えた)程度にしか思ってませんでした。

実際には、本番3日前にコースを伝えられ、それがいままで準備・練習していたコースとはまったく違っていて、家庭崩壊の思い出しかない街から、創価学会活動にのめりこんだ土地を通過して武道館にいたる、というものだったそうで。いやー、テレビ局ってえぐいことをするもんなんですね。『愛は地球を救う』なんて言いながら、見世物を盛り上げるためには愛もへったくれもないわけで。

『杉田』は結婚直後に出版され、半年後には離婚。出会ってから離婚までほぼ1年というあたりがテレビ的で、この辺はすべて、杉田かおるの計算のうちなんだろうなとも思います。セレブ婚として話題になったことでAERAの取材を受け、「ネタを必死に考えてセルフプロデュースをしていくのは想像以上に大変」というようなコメントもしています。

ただ、たとえ計算だったとしても、バラエティの汚れキャラ/『すれっからし』/100キロマラソン/『杉田』/結婚→離婚と、立て続けになりふりかまわず打ち出してはい上がってきたのは、それだけの地獄を見たからなんでしょうね。まさに死に物狂いという感じです(怖)

そんなわけで、『杉田』を読んだ私は、マジメにコツコツ労働しようと改めて誓ったのでした。←この辺の小物っぷりがちょっと切なくもありますが。


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yu-ka

まさかrioさんから杉田魔王の名が聞けるとは…驚きました〜。私は、ロンハーの杉田さんが面白くて結構見てしまうのですが、命を狙われてる組織ってどこなんだろうと思っていたので、早速読んでみたいと思います。斉藤美奈子さんは村上春樹さんがイスラエルで行った演説について、私からみるとズレた批評をされていたので何とも言えないのですが、信頼できるヒト・モノって見極めが難しいですね…。子供の頃は、新聞テレビが言うことは全て正しいと思っていた私もすっかり大人になり、まず疑ってかかることが習性になりましたが、何故かrioさんblogは信頼してます
by yu-ka (2009-03-03 23:41) 

rio

>yu-kaさん、杉田かおるはけっこう好きなんですよ。

バラエティ汚れで復活する前の杉田かおるは、”金八”の”15歳の妊娠”ぐらいしか知らなかったんですが。さんま御殿に出てきたとき(←まだ、世間のイメージが元天才子役だったころ)に、ガンガン攻めるトークをにこやかにしていて、ホンモノっぽいなと(笑)。それ以来、ずっと注目していました。

杉田かおるの身の上におきたことは、波乱万丈振りがものすごいですが、その根っこにある問題点はけっこう普遍的というか、誰の身にも起こることだと思うんですよね。

子どものころは、外では優等生で家庭内はぼろぼろ。思春期は暴力と自己嫌悪を繰り返す日々。そこから逃れようと必死につかんだワラが怪しげな新興宗教だった…という。

杉田かおるが今の調子でテレビに出続けている間は、ひとまず安心ということなんだなあと思ってます。

ところで、斎藤美奈子ですが、朝日の夕刊の文芸時評ですよね?私もあれはずれてると思いました。

言わんとすることは理解できますし、斎藤美奈子が村上春樹を嫌いなのも「もうわかったから!」って感じですが(笑)、なんか本職(=書評)に入るための枕に村上春樹を利用しただけって感じでしたよね。『文芸誤報』もそうですが、そういうやっつけ仕事な感じでいいのかなあ???という印象です。

ちなみに、私は村上春樹のイスラエルでの演説をまったく評価していません。私の考える「正解」は、「村上春樹がわざわざイスラエルまで出向いて受賞拒否を直接伝え、さっさと帰る」というものです。

賞を受けておいて、スピーチで名指しを避けながら小言めいたことを言うなんて腰が引けすぎてるんじゃないかと。万が一その行動に意味があるとしても、それはイスラエルにとっては無視できる程度ですし、パレスチナにとっては失望にしかならないでしょう。

アメリカ在住の春樹先生にとって、もしかしたらその辺でユダヤ系とのしがらみがあって拒否できなかったんじゃないの?とか、そういう下衆の勘繰りをしてしまいました。
by rio (2009-03-04 00:33) 

yu-ka

そうです、朝日の夕刊です!
斎藤さんは、村上春樹が嫌いなんですね…なるほど、納得。
rioさん、ヒドイ…小言って(泣)
それでもやはり私は、村上さんが日本人の小説家としてあの場所に赴き、世界にメッセージを発した事はとても価値があると思います。
イスラエルのガザ攻撃に対する批判はもちろんですが、村上さんが考える他者との関わりや、この世界の根本的な問題が率直に語られ、その言葉の数々は心に響きました。同じように様々な問題を抱える様々な人々にあのメッセージは伝わったのではないか…と考える私は、甘ちゃんかもですが。
オバマ大統領の演説よりよっぽどいいのになぁ。なぜ各新聞は全文掲載しなかったのが不思議です。
by yu-ka (2009-03-04 21:38) 

rio

>yu-kaさん、村上春樹が世界各国で読まれているわりには、あの演説はそれほど広がりませんでしたね。なぜでしょう。

村上春樹が固有名詞を使ってガザ侵攻を批判できなかったことも考えると、やっぱりなんらかの政治的圧力がかかっていたのかもしれませんね。だから小言めいた言い方になってしまい、インパクトが弱まったのかも。

あの演説はイスラエル国内やパレスチナ自治区でも紹介されたんでしょうか。その辺も気になりますね。

そうしたことはともかく、確かに、少なくとも日本ではオバマ以上か、せめてオバマと同じぐらいの大きさで扱うべきですよね。70年代だと、大きく取り上げられて、「作家と政治」みたいなテーマで議論になっていたと思うのですが。

でも、そこは作家。この経験を近いうちに、文章にしてくれるものと思います。そのときに「そういうことだったのか!」とわかることもあるかもしれませんね。


by rio (2009-03-05 00:48) 

madoka

『文芸誤報』、私もすぐに読みましたが、”商品カタログ”という言葉はピッタリですね(笑)。
まあ斎藤美奈子だけあって、カタログとしては大変優秀な出来ですが、やはり物足りませんでした。

書評家、というか評論家と言うと、『文芸賞メッタ斬り!』や『読むのが怖い!』でお馴染みの大森望(翻訳家でもある)も私は大好きなのですが、膨大な知識量といい、絶妙なユーモアとイヤミのバランスといい(笑)、なんかイメージがrioさんとかぶるんですよね。
この人の説得力に押されて、それまで手を出そうとも思わなかった伝奇小説や幻想小説や異世界ファンタジーを読むようになり、楽しみが増えました。(SFは敷居が高そうで、いまだに手が出ない。)

ところで、『杉田』は私も気になってたんですよ!
単行本サイズはジャマくさいので、文庫になってから(しかも中古本を)買おうと思ってました(←ドケチ)。
しかし、予想以上に凄そうですなあ!興味津々です。
by madoka (2009-03-05 22:05) 

rio

>madokaさん、連載をまとめた本なので、1本あたりの字数が決まってしまっている大変さもありますよね。

それでも急上昇中の斎藤美奈子なら、大幅加筆や補筆があったのですが、小林秀雄賞をとったあたりからすっかり大御所におなりになって(笑)、『文芸誤報』の補筆は必要最小限でしたね。

大森&豊崎のあの仕事いいなあといつも思います。あれだけ読むのは大変でしょうが、基本は感想文ですからねー。大森は分析をしてみせることがありますが、そういうときほど豊崎とかみあってないですよね(笑)

やっぱり↑このコンビから比べると、斎藤美奈子は短文の中に核心をついた分析をまとめてくる率が高いので、さすがだなあと思います。

このブログでも書評をやりたいなあと思いつつ、いまのところ単発(しかも新刊ではなく)です。

『杉田』、アマゾンの中古だと100円から出てましたよ。でも確かに単行本サイズはじゃまくさいですね。文庫化されるほど売れたのかどうかは謎ですが。文庫化って一般的には3年後ですから、今の時期に出てないということは、このままでないのかも。まあ、内容が内容ですから、出ないというより「出せない」のかもしれませんね。
by rio (2009-03-06 00:18) 

古都の侍

こんばんは。

ほぉ~、杉田かおるネタとはホントに驚きましたよ。次回は、石原真理子をお願いします(違)

しかしねぇ、芸能界は創価学会信者がわんさかわんさかのようですからね。そんな中、最近愛川のキンキンが「オレは創価学会員じゃない!」という発言をして(と言うか、あの誤報は何だったのでしょうか?)話題になっていますよね。

そんな杉田、最近ではピッタンコカンカンとロンハーくらいでしかお見かけしませんが、一番面白いのがVVVシュランで「酒乱」になってV6に絡んでいくヤツですね。3ヶ月に1回くらいゲストで出ては、飲んだくれてますから。軽井沢と箱根の回の乱れ方は面白かったなぁ~

他人の(と言うか○○家的なやつ)勧めた本と言うのをあまり読まないため、書評家の方のコメントなどは読んだことがないに等しいのですが、きっとそれを読むとまた読書の深みが出るのでしょうねぇ・・・
私はいつも嗅覚と、立ち読みした時の感触とが大きな本を選ぶときの要素なのですが、外れの本を買う確立が非常に低いのが自慢です。しかーし、最近2年ぶりくらいに外れの本(霧村悠康の『死の点滴』)を読んでしまいました。頑張れば2/3になるような中身と、歯切れが悪く回りくどい文章・・・うっかり挫折しそうになりました。

K市は大きないい本屋がないので、都会の大きな本屋にたまに行くとテンションが上がるんですよね~。しかしながら私の行きつけの本屋は、ひっそりとたたずむ店で“立ち読み”には打ってつけなのですが・・・


by 古都の侍 (2009-03-06 00:32) 

rio

>古都の侍さん、石原真理子も読んでみたいですね。タレント本は、何をはっきり書いているかよりも、どこをぼかしたかのほうが面白かったりします。いじわるです。

私も基本的に、書評を参考にして読むことはないんですね。本屋で念力を発しながら歩き回り、ニオイで見つけます。買った本は必ず読む派だったんですが、2~3年前から挫折してしまうことがちらほら。綿谷りさの『蹴りたい背中』を挫折した時にはちょっと衝撃でした。いま思いだしました。あとで読み直しておこうと思います。

いまは歩いてすぐのところに図書館があるので、さらに”挫折グセ”がついてしまいました。読み終える前に返却期限がきて、まあいいかと返してしまうという。

ちなみに、池袋の巨大なジュンク堂に行くと、イスが置いてあって座り読みができます。
by rio (2009-03-06 00:43) 

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