WGP予選・ドイツ戦 “型”どおりの完勝でなにより。 [バレーボール]
WGP予選第2週、イタリア人のグイデッティ監督ひきいるドイツに完勝。イタリア戦の勝ち方と同じパターンですね。センター陣が機動力を活かして攻守に活躍し、それがボディーブローのように相手に効いていく展開。だから170センチ台のサイド陣でもまわしていけるという。高いサイドが戻ってきて層が厚くなれば、もう一段上のバレーもできそうです。
そんなドイツ戦の第1セットローテはこんな感じ↓
竹下 山本 江畑/迫田
木村 井上 山口
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シャウス(MB) マテス ワイス(S)
コズーフ ブリンカー シュシュケ(MB)
ドイツは懲罰的なメンバー変更しまくり、ローテ変えまくりで、あれではチームとして機能しないよな…と思いながら観てました。グイデッティ監督は、09年に育成モードで起用していた左利き長身セッター・ハンケではなく、本来の正セッター・ワイスを起用。ベストメンバーでガチンコ勝負を挑んできたわけですが、サーブレシーブの乱れがどうしてもガマンできないようです。
ブリンカーなんて何回出たり入ったりしたか…と思うほどの交代の多さ。第4セットにはスタメンをバイアーに代えられたあげく、日本のブロックにつかまったマテスのポジションに途中出場させられる始末。そんなコマみたいな扱いでチームがきちんとまわるはずもなく、木村がサーブでバイアーとブリンカーの間を徹底的に狙うとあっさり壊れて勝負あり。またしてもベンチワークのまずさで自滅した、という印象です。これ、イタリア人監督に共通する負けパターンですよね。
それはさておき、
<第1セット>
日本は26-28で落としたわけですが、理由ははっきりしています。序盤~中盤で山口がサーブで狙われるという今大会では“未知”の展開で競り合いに持ち込まれてしまったことと、江畑のレフト攻撃が機能しなかったからですね。
ドイツは最初、いつもどおりの木村狙いでした。ところが、日本の1本目は山口・井上のダブルクイックで山口B、2本目が山口・井上の時間差で山口がライト→センター。なので、ドイツはコズーフのサーブから、山口狙いに変更してプレッシャーをかけてきたんですね。
作戦の方向性は正しくて、日本はセンター攻撃とサイド攻撃をそれぞれ単発にされてしまったのですが、山本・木村がここで踏ん張りました。リードされてのタイムアウト明け5-8の場面で、山本はレフトサイドから1メートルぐらい中の位置から、ライト側アンテナまで8メートルぐらい走ってのブロード攻撃を決めています。その直後、6-9の場面では、セッターに近い位置からの華麗な2歩助走で、大きく空中移動してのブロード攻撃。これでパワーがさらに強化されたら、中国やロシアのワンレグに引けを取らない完成度になると思います。一方、木村はライト・レフト・バックセンターとそれぞれの位置から強打を打ち込み、存在感を発揮してマークをひきつけていました。
つまり、ドイツにとっては、作戦は成功しているのに、個人技でやられてしまう展開なわけで、これはつらい。日本がブラジルに負けたときと同じパターンですね。
逆に日本は、サーブで崩したり、ブロックでしとめたりとあっさり逆転で13-11。ここでタイムアウトをとったグイデッティ監督は、サーブを木村狙いに戻し、山口をブロックでマークする作戦を繰り出してきます(木村・佐野が山口のサーブレシーブをカバーする体制を整えたことも関係あるかもしれません)。
↑これも有効で、タイムアウト明けの井上Cワイドおとりの山口のライト攻撃がシャットアウト。続くプレーで、竹下が強引に井上にBクイックを打たせようとしたところ、トスミスで井上ネット。もたもたした日本は、あっさりと13-13の同点に追いつかれてしまいます。で、ドイツはここから、「山口の動線をじゃまするようなサーブを打って木村に取らせる」という高度なサーブが続きます。
ここまでグイデッティ監督のデータバレーがうまくいっているように見えます。というか、確かにうまくいっているのですが。だがしかし。狙いをころころかえたせいで、試合後に振り返ると、結局、山口も木村もつぶしきれていなかったんですね。これが第2セット以降の展開に大きく響いたと思います。
たぶん、ドイツが山口を徹底的にサーブレシーブで狙い続けていれば、今大会でそういうパターンを経験していない日本は苦戦を強いられたはずです。いまのチームで山口を下げるとどんなバレーになってしまうか…というのはブラジル戦で実証済み。木村はなにがあってもさがらないわけですから、「一番弱いところを狙う」というセオリーから言えば、ドイツの山口狙いは間違っていなかったわけです。それでも、木村にアタックを決められると木村狙いに戻してしまうのは…それだけ木村の存在感がでかいからなんでしょうか。
さて、中盤以降です。
最大4点差をつけられながらもジュースに持ち込んで競り合ったわけですが、この間、日本は江畑がほぼ機能していませんでした。
この試合で竹下は、江畑にゆっくりで高く、ネットから離したオープントスを上げていました。ブラジル戦で弱気になってしまった20歳を立て直す意味があったのかもしれませんし、ドイツの完成の遅いブロックから確実にブロックアウトを取れるように、との狙いだったのかもしれません。
だがしかし。江畑の助走のタイミングと微妙にずれてたんですよねえ。。。江畑は自分から、もっと速いトスを要求するべきだったのでは。そういうことができないとしたら、それはチームとして未熟なわけで。あるいは、竹下はオープントスを上げるなら、もっとアンテナ側まで伸ばしてあげるべきでしたね。江畑がブロックに取り囲まれてシャットアウトをくらい、明らかに自信なさそうな表情をしていたのが気になりました。
そんなこともありつつ26-28まで競り合ったわけで、この時点で実力は日本が上であることははっきりしていました。ホームでの対戦ですし、日本の狙いも動きもデータも悪くない。江畑のポジションだけをなんとかして、ラリー中にレフト攻撃で得点できるようになれば、完全に日本ペースになるだろうと。
そこまで明らかな展開にできたのは、やっぱりセンター線の頑張りですね。山本は第1セットから最後まで8割近い決定率をキープ。井上は山口とのコンビで、ブロックを必ず1枚以上引き寄せていました。特に、センター線のA/Cクイックに踏み込んでからのブロード攻撃は、ほぼ100%、相手ブロッカーがA/Cに跳んでしまい、最後までビシバシ決まってました。井上はさらに、ブロックでも存在感をはっきしています。この試合が終わった時点で、ブロック部門1位 。 荒木もブロック部門で上位にくる選手ですし、日本のブロックは今後、ちょっとすごいことになってくるかもしれません。
ということで、第2セットは江畑に代えて迫田、となったのは自然な流れでした。
<第2セット以降>
ドイツは「江畑をつぶした」ぐらいの感じだったんでしょうね。序盤からびっちりセンター線にブロックが2枚張り付いていました。
なので、竹下はセンター線を使わない。1本目はいきなり迫田のセンターバックアタックで、2本目以降は木村のレフト攻撃で押す展開。いやー、年齢やキャリアに関係なく、向上心があれば成長するもんですね。駆け引きの“か”の字もなく、上げたいところにトスをぶん投げていた竹下とは別人のようです。
第1セットで強烈な印象を植え付けたセンター線+山口を見せつつ、徐々に迫田のレフト攻撃の比重を高めていく作戦。さらに、アクセントで木村に打たせるので、ドイツの守備隊形はぐちゃぐちゃになってしまっていました。このセット以降、日本のセンター線は、何本もノーブロック状態で打ちまくりでした。
さらに日本は、第1セットからローテを一つ戻し、竹下が前衛ライトから始まるようにしていたんですね。第2セットはドイツからのサーブなので、日本のサーブ順は第1セットと変らないのですが、サーブを狙うコース・対象が違ってきます。
日本は前衛アタッカーにサーブを取らせて、攻撃参加を遅らせる作戦。なので、第1セットは竹下も木村もマテス狙いでした。しかし、このマテスが、崩されても自分で打って決めてくるのでやっかいだったわけです。第2セット以降、ローテを一つずらしたことによって、1stサーブの竹下はマテス狙いですが、2ndサーブの木村は前衛レフトに上がってきたブリンカー狙いに変りました。これが大当たりでした。
ブリンカー、サーブレシーブ嫌がりすぎ(痛)。リベロ部門で1~2位を争っているリベロ・チューリヒがカバーに入っているとはいえ、ぎりぎりで半身になってよけられたらどうしようもありません。木村は今大会、自陣のレフト側から相手レフトサイドライン際のアタックラインの後ろあたりにストンと落ちるサーブをよく使っていて、これがブラジル戦ではアウトになったりなんかしていまいち不発気味だったんですが、ドイツ戦では面白いように決まりましたねー。
あとはもう、日本の一方的な展開です。ドイツは木村が2本連続のサービスエースを決めた7-3の時点で、ブリンカーを下げてバイアーを投入します。しかし、タイムアウト明けの8-4の場面、井上がサーブでバイアーとマテスの間を狙って崩し、バイアーがハイセットのレフト攻撃をアウトにしてしまうと、またすぐにブリンカーを戻す迷走ぶり。いけません。
勢いに乗る井上は、次にマテスの奥を狙います。これが明らかに!何度リプレイしても明らかに!!入っていて、線審もインのコールをしているのに!!!主審がまさかのオーバーコールでアウトの判定。ボールを見送ってしまったマテスはわざとらしいガッツポーズをしながらリベロ・チューリヒをチラ見していますが、チューリヒはアウトだと思ってガッツポーズしようとしたら入っていたので、ぎこちない動きでマテスにタッチを求めただけで、少しも喜んでいませんでした。主審はエジプトのおっさんですが、宿にもどってリプレイを100万回ぐらい見直してから反省文を書いてほしいと思います。
まあ、1本の判定ミスで試合が傾く危険性がなかったことは不幸中の幸い。その後も日本は、作ってきた“型”を崩さず、センター線がブロックをひきつけまくっての完勝。何よりでございました。
<今後の課題>
ポーランド戦については、今日の台湾VSポーランドでも書きましたが、この調子で丁寧な試合運び(選手もベンチも)をすれば、同じように勝てると思います。
気になるのは、山口がサーブレシーブで狙われたときの対応が未完成なことと、センター線のセッターの前でのクイックが極端に少ないことですね。
ドイツ戦では、A/Cをほとんど打ってないにもかかわらず、A/Cに引っ掛けたブロード攻撃が完璧に効いていましたが、ブラジル戦では、A/Cを打っていったにもかかわらず、試合が進むにつれておとりでひっかけられなくなっていきました。イタリアやドイツには快勝しながら、ブラジルにはいいところなく惨敗する理由は、この辺にあるような気がします。
今大会、竹下のバックトスはさえていますが、A/Bクイックはいまいちなんですよね。トスが遅くて低く、上がる位置もブロックに微妙にかぶっているという。一度にすべてを完璧にはできませんが、相手が追いついてくる前に、一歩前に進んでほしいと思います。
サーブで山口が徹底して狙われたらどうするか。所属チームではセンターをやってるだけに、これは難問ですなあ。私が敵チームだったら、ここを徹底して狙い続けるだろうなあ。
いまのところ、後衛では井野を出す采配になっていますが、これが根本的な解決にならないことは、眞鍋監督も重々承知のはず。「守備型選手の守備固め用にレシーバーをベンチに入れておく」という柳本体制の負の遺産を断ち切らねば、ブラジルのような選手層の厚みはうまれないわけで。世界バレーまでに修正できるかどうか、注目したいと思います。
シーガルズはセンターがサーブレシーブに入って、レフトがリベロと替わることが多いという珍しいチームなので、山口も狙われること自体は慣れてますよ。実際チームの中でサーブレシーブの本数がいちばん多いですから。もちろん国際試合ではサーブの速さ、強さがかなり違うとは思いますが、そう簡単に崩れることはないはずです。…願望も込めて。
by 妖怪人間キカイダー (2010-08-14 09:02)
>妖怪人間キカイダーさん、そうですね。所属チームでやっているからこそ、眞鍋監督も山口をサーブレシーブ付きのオポジットに配置してるんですもんね。
いまの全日本で、山口がサーブレシーブで崩されるのはもちろん困るんですが、山口が崩れなくても、サーブで狙われることで攻撃参加ができなくなる(遅れる)こともとても困りますよね。
たとえば、井上は打数はすくなくて、山口とのコンビネーションでブロックをひきつけることによってチームに貢献しています。井上自体の決定力はそれほど高くありませんから、井上が前衛のローテの攻撃力が一気に下がりますよね。
ブラジル戦では、攻撃面で山口は徹底マークされてつぶされ、山口が下げられたあとの日本の戦い方は、単発のブロードと単発のレフト攻撃ばかりでした。
今回のWGP予選の活躍で、各チームは山口を要警戒リストにいれ、サーブでも徹底的に狙ってくるはずです。
山口はドイツ戦のあとのコメントで、この試合でのスパイク決定率がチーム1位だった理由をきかれ、「私の前のブロックが1枚になることが多かったから」と答えています。素直というかなんというか(^^;
なので、山口の動線をじゃまするサーブ、山口にクイックや時間差に入らせないサーブを各国とも打ってくるはず。そうなったときの対処は、いまの全日本には「山口、がんばれ!」しかありません。後衛では井野を出すにしても、前衛でのオプションはありませんから。
東京ラウンドではイタリアとの再戦がありますよね。イタリアはトリノ国際、WGPブラジルラウンドと2連敗してますから、なにか仕掛けてくるはずです。そこに注目しています。
by rio (2010-08-14 16:08)