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常用漢字に「俺」は入るのか [けっこう気になる]

現行の常用漢字1945字に、新たに220字が追加される方向で検討が進んでいます。なんて言われても、そんなことどうでもいいやって感じだと思いますが、こうした一見どうでもいいことが、実は私たちの心理的な部分にけっこう影響を与えていたりするんですよね。逆に言えば、無意識のうちに心理的な影響を受けていることだからこそ「どうでもいいや」って思ってしまうのかもしれません。

「常用漢字」は1981年に政府が定めたものです。法令や公文書といった官製文書だけでなく、新聞、雑誌、放送など民間の社会生活にいたるまで、漢字使用の目安を示した規準です。大きなお世話と考える人もいれば、情報の速やかな伝達に役立つと考える人もいます。この前身は1946年に制定された「当用漢字」で、このときは目安というよりも”こうするべき”という押し付けの性格が強いものでした。戦前にも漢字使用のガイドラインはあって、それは”こうしなさい”的なものでしたから、だんだん緩くなっているわけです。

「当用漢字」「常用漢字」がそれぞれどうやって選ばれたか、あるいは日本版の簡体字がどうやって作られたか、この辺の歴史を調べるとけっこう面白いんですね。公権力、新聞を中心としたマスコミ、学者たちの三者が入り乱れて主導権争いを繰り広げていて。

「お母さん」なんてはしたない読み方は認めるべきじゃない!とか(笑)。新聞協会は常用漢字と少しずれる新聞漢字表を作っていますが、朝日みたいにエリート意識が高くて人と同じじゃいやなんだよね、ってな新聞は、社独自の漢字表を作ってみたりとか。学者や政治家の中には「漢字廃止、ローマ字使用」を主張するややこしい一派もあって、戦前から戦後にかけて、日本は何度も「ローマ字化」の危険(←と言い切っていいでしょう)にさらされていたりとか。

そんなこんなで、仕方がないから電子機器のソフトを作る会社はあらゆる漢字表記、ローマ字表記を取り寄せてプログラミングしなければならず、その結果、いまでは「常用漢字」から思いっきりはずれた小難しい漢字がメールで飛び交う、というややこしい状況になったりしてます。

前置きが長くなりましたが、そんな常用漢字に追加されることが「ほぼ確実(読売・13日付)」な42字はこちら↓

藤、誰、、岡、阪、奈、鹿、熊、頃、韓、弥、斬、虎、狙、脇、尻、叩、闇、籠、呂、亀、頬、膝、鶴、匂、嘘、須、噂、濡、笠、嬉、股、眉、朋、覗、鎌、凄、撫、溜、謎、稽、曾

「韓」って常用漢字じゃなかったんですねえ。ということは、小中学校の教科書では「かん国」って混ぜ書きか、ふり仮名がついてるんでしょうか。でも、「岡」山、「奈」良、大「阪」、「弥」生時代などにはふり仮名がつきませんよね。そもそも、こうした漢字がなんで30年近くも放っておかれてたのか、謎です。

「曽」の旧字体「曾」がなぜ復活するのかも謎ですねえ。簡体字を作った意味がない。

そしてもう一つ気になること。読売の記事よると、

「俺」については「公の場で使う言葉ではない」といった反対意見もあり、引き続き検討を行う。

だそうです。”大きなお世話”だと考える勢力が批判しているのはこうした点なんですね。結局、政府の作る漢字表というのは、純粋に漢字使用の便利だけを考えて作っているわけではないのです。以前も書きましたが、「国語教育は道徳教育である」と皮肉られるゆえんです。公文書には使わなくても、新聞、雑誌、放送、書籍ではしょっちゅう出てくる漢字なんだから、常用漢字にしとけばいいじゃないかってのが一般的な感覚だと思いますが。

もともと「おれ」は男女共用の一人称で、目上・目下どちらの相手にも使えます。なので、地方のお年寄り(おばあさんたち含む)の中には、誰に対しても「おれ」って言う人がいますよね。「公の場で使う言葉ではない」という反対意見は、こうした文化を無視しているか、さげすんでいるか、いずれにしても認めたくないと考えている(←まさか専門家たちが「知らない」はずはないので)。

この意見が通ってしまうと、80年か90年かそれ以上の年月にわたって「おれ」と言い続けたお年寄りたちが、ある日突然、政府によって「公の場で使う言葉ではない一人称を使っている人」=「礼儀を知らない人」にされてしまうわけです。そんなバカな話があっていいものか。

そんなわけで「俺」が常用漢字に入るのかどうか、どうしても気になってしまいます。


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古都の侍


論点は少しずれますが・・・

・安堵=安ど
・窃盗=せっ盗

などなどTVの字幕でこういう風にひらがな交じりで書くことがどうも私は以前から気になって仕方がないのですが。
小学校の教科書などでも習っていない漢字は基本的にひらがなに置き換えられるので・・・

・故郷=故きょう
・講習=こう習
・授業=じゅ業

などと書き示すことも私は常々「?」だと感じています。「故郷」なら「故郷」と書いて上に振り仮名を振るべきではないでしょうか。
その方が漢字を読む力や書く力はつくように思います。

私が感じる中でのことですが、やはり最近の人は漢字が読めていないように思います。どうせ日本人に生まれたのだから、母国語の最低限度くらいは、と思ってしまう私は昔タイプでしょうかね・・・


by 古都の侍 (2008-05-13 18:19) 

rio

>古都の侍さん、マスコミが熟語の混ぜ書きをするのも「常用漢字」が決まっているせいですね。

放送はルビをふることも増えてきたように思いますが、新聞はいまだに厳しいですね。古いメディアほど対応が追いつかないというか。ちょっと前まで「損失補てん」なんて書いてましたし。

明治期みたいに総ルビにすればいいという主張も前からありますよね。さすがに大人の読むものが総ルビになるとちょっとつらいですが、混ぜ書きをするぐらいならその熟語にはルビをふればいいと思います。
by rio (2008-05-13 21:47) 

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