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NHKと朝日のケンカ、最高裁は判断示さず (上) [けっこう気になる]

3年越しのNHK・自民党と朝日のケンカの結論がようやく出ました。最高裁いわく「どうでもいい」。

そもそもどういうゴタゴタだったのか。いまから7年前の2001年、NHKがETV特集の中で、昭和天皇の戦争責任を裁く民間法廷を取材し、放送しました。昭和天皇の”罪状”は従軍慰安婦(番組では性奴隷と表現)制度に国がかかわっていたことです。そういうことを糾弾する団体の方がなさってたんですね。私は実際にはこの番組を見てないんですが、後の報道によると、「裁判」とは言っても弁護人は無く、被告が昭和天皇と言ってもとっくに死んでるし、代理人が出るわけでもなかったそうで。言ってみれば、裁判形式にした”サークルの集会”みたいなもんだったんだろうと推測します。

私の関心は↑ここには無くて、放送の4年後の2005年、朝日新聞が「NHKに自民党の安倍晋三と中川昭一の2議員が圧力をかけ、番組内容を改変させた」というスクープを放ったことから始まった泥仕合の行方でした。関係があるのかどうか知りませんが、この時期は朝日が超タカ派の小泉首相を攻めあぐねていた頃でした。

NHKは朝日の記事を全面否定し、「虚偽報道問題」としてニュースで取り上げて反論。これに対し、朝日が「虚偽と断定するのは中立報道とはいえない」と噛み付くなどしてヒートアップ。安倍は一貫して圧力を否定し、中川は発言が二転三転する(最終的には圧力を全面否定)など対応がぶれたことや、NHKの組合のなんとかとかいう人が涙ながらの記者会見をするなど紆余曲折があって、「目くそ鼻くそなんじゃないの」と世間をうんざりさせました(たぶん)。

で、その時におそらく、世間の一部の方は「裁判やってはっきりさせればすむことだろ」と思ったはず(多くの方は「どうでもいい」と思ったはず)。なのに、NHKは自民党と組んで「朝日を訴えずに非難し続ける」道を選び、朝日も公共放送(NHK)と公党(自民党)からの攻撃に「あくまで裁判に持ち込まずに反論」する、という摩訶不思議なケンカになったのでした。

なんでこんなことになったのか。理由は一つしかないでしょう。私の独断と偏見と無責任で勝手な推測を述べますと、これはもう「自民・NHKの間で番組改変についての合意があり、朝日はそのネタをつかみながら甘い取材で墓穴を掘った」からだとしか考えられません。裁判になっていれば、NHK・自民党と朝日の双方に不利なネタが次々に出てきて、そのダメージは計り知れない。だからひよった(正)。金持ちケンカせず(違)。だと思います。

んでもって、収まらないのが「民間法廷」を開いた方々。おそらく朝日の後押しもあったんじゃないかと思いますが、「取材をされたことについて放送されるかと思ったらされなかった」というご不満について訴えました。これが、このたび最高裁まで言って結論が出た裁判の訴状なんですね。

団体の方々は、

取材をされた放送されると期待を持っただから放送されるべきなのに、されなかった不当な圧力が働いたからに違いない法律的にだめだよね

という論理展開を狙っていたのだと思います。もちろん、念頭には自民党の安倍・中川の名前があったのでしょう。NHK・自民と朝日の代理戦争という意識もあったかもしれません(なかったかもしれません)。

しかーし!こうやって簡素化して眺めるとおかしいですよね。「期待したから放送されるべきなんだ」という論理展開に飛躍がありすぎです。それを認めてしまえば報道なんて成立しません。例えば、「ガソリン値上げどうですか?」って10人に聞いて2人しか使わなかった時、残り8人に訴えられて負けてしまうことになりますから。ありえませんね。

なので、最高裁は「そんな論理はありえません」と答えを出しました。判決要旨(共同通信の配信)のこの部分を読むとけっこう笑えます。

番組は放送事業者の内部でさまざまな立場、観点から検討され編集されるのが当然で、その結果最終的な放送内容が当初の企画と異なったり、放送に至らなかったりする可能性があるのも当然だ。このことは国民一般に認識されている。

2回も「当然」って言葉を使った上で、最後に「みんな知ってることやで!」ってダメ押しまでしてるんですね。かなりのいらつきを感じます。ご機嫌ナナメだったんでしょうか。

※ただし、取材を受けた人の負担がとんでもなく重く、取材する側が「取り上げる」と明言したのに報道しなかった場合は、報道側の責任になることがある、ということだそうです。改めて言われなくても、社会通念上、「当然」だと思います。

ここまでの結論で最高裁はお仕事がすべて終わったので、残りのNHK・自民党VS朝日については考える気力も起きなかったのでしょう。ということで、「どうでもいい」ってことになったんでしょうね。

(つづく)
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コメント 8

madoka

「ここには関心がない」とおっしゃっている部分に食いついてごめんなさい。
女性国際戦犯法廷は、「”サークルの集会”みたいなもん」よりは意義のあるものだったと私は思っています。

その後のNHK&自民党 vs. 朝日の泥仕合がバカバカしい、ということに関しては同感です。
by madoka (2008-06-13 22:22) 

おじさん

スパイスの効いた文章ありがとうございます。
このこと自体、忘れてました。人権援護法案のほうが気がかりですね。

グローバルで仕事をしていると、どうやって相手より有利な立場を築くか、維持するかの大切さ、困難さを感じますが、今の日本人はそういった面で弱いなぁと。バレーの最終予選もそうですが、毎年レベルの高い試合を見れる機会があるとポジティブに考えればいいのに、そういう立場をいらないと考える方が多いのはあきれます。

この裁判もあわよくばといった考えで起こしたものですが、世間知らずと揶揄されることもある法曹界では極めてまっとうな判断をさすがにしたようですね。

先日はごめんなさい。ブログ、楽しみにしています。

それでは。
by おじさん (2008-06-14 00:29) 

rio

>madokaさん、私はあの団体のやり口が好きじゃないんですよねえ。

「欠席裁判」という形をとった時点でアウトだと思います。また、従軍慰安婦は国(軍)が主導して軍用として行われていたことは事実だと思っていますが、追及の仕方が偏ってると思うんですね。

従軍慰安婦制度が機能した背景には、被支配民族の末端での協力があった(協力せざるを得なかった)こと、旧植民地に限らず「貧困」の問題があったこと、そして、戦後に「戦勝国」として独立した旧植民地内での慰安婦差別と歴史の隠蔽があったこと(=事実が正確に伝えられてこなかった)などがあるはずで、少なくともこの3点は議論の俎上にのせないとだめだと思うんです。

なのにあの団体は、従軍慰安婦には国が関与した→だから昭和天皇は有罪、という「だけ」の論理展開ですよね。拙いというかなんというか、「だから右翼に揚げ足取られるんだよ!」と歯がゆい思いをしてしまいます。


by rio (2008-06-14 02:35) 

rio

>おじさん、コメントありがとうございます。

繰り返しになりますが、

>グローバルで仕事をしていると、どうやって相手より有利な立場を築くか、維持するかの大切さ、困難さを感じますが、今の日本人はそういった面で弱いなぁと。

このご指摘と、バレーの開催が日本偏重になっていることとは、本質的な点でまったく別の問題だと考えています。

おじさんがクウェートのご出身だと、きっと「中東の笛」を吹くんだろうなと想像しています。
by rio (2008-06-14 02:48) 

madoka

まあ、私も好きか嫌いかと問われると困ってしまうのですが…。

なんかほかにやり方があったでしょうよ…とは思います。
「裁判」という態をとったこと自体にも無理がある、というか、「ごっこじゃん…」と思ってしまいますし・・・。

ただねえ、ものすごく冷笑的に語られたり、馬鹿にされることが多いでしょう?
確かにやり方も拙いし、rioさんあたりから見たら笑止千万!って感じなのかもしれないけど、ああいうアクションを起こしたことに関しては、私は応援しないわけにはいかない!という気持ちにさせられるんですよ。
揚げ足を取って得意満面の右翼のツラを考えるとなおさらです。

NHKが放送した内容についての、VAWW-NETジャパンによる抗議も、私はそれほどおかしなものだとは思いませんでした。
むしろ、そりゃ抗議もするだろ、と思いました。

最高裁の判決要旨を見ても、小ばかにしたような文章だなあ、その「国民一般」って誰だよ、くれぐれも私をその「国民一般」という言葉で括るなよ、というふうに感じました。

いつも記事の趣旨とは違うところですみません(^^;)。
by madoka (2008-06-14 03:32) 

rio

>madokaさん、引用した最高裁の判決要旨は、団体やNHKや自民党や朝日やなんやかやの主張を議論する前提部分なんですね。

端的に言えば、「取材されたことがすべて報道されるわけじゃない、ってことぐらいはみんなわかってるよね」という確認で、これはその通りだと思います。

その前提で争点を整理すると、バウネットは第一に「取材されたことを放送されなかった」と訴えているので、その時点で「そういうこともありますよ」と言われてしまって幕引きになってしまうんですね。

もちろん、バウネットの訴訟の真意はそこではなくて、引用した部分のミソ

「放送事業者の内部でさまざまな立場、観点から検討され編集される」

で言うと、「『放送事業者の内部』ではなく、『政治家』の圧力で編集された」という主張を認めさせたかったわけですよね。しかし、決定的な証拠を出せずじまい。これが響きました。

私は、安倍・中川の圧力は当然あっただろうと思ってます。しかし、証拠が無いことにはどうしようもなく、踏み込んだ判決を出した二審でさえ、「NHKの体質として、なんかやばそうだからカットしとくか的な編集だった」としか認定してません。

これはひとえに、朝日の失態だと思います。朝日の取材が万全で、訴訟でもなんでもこい!という状態=録音テープなどの確たる証拠を持っている状態だったら、こんな判決にはならなかったはず。そもそも、朝日が原告になっていたでしょう。

朝日は取材の不備を認めていますが、結局、訴訟そのものはバウネットに押し付けて、自分たちはケツまくって、今回の判決にも「当事者じゃないのでコメントする立場にない」なんて言ってるわけですよね。社説ではさらっとNHKに説教垂れてますが。

本来なら「虚偽報道」「捏造記事」と侮辱された朝日が、NHKと安倍・中川を名誉毀損で訴えるのが訴訟のスジなのに、できなかった。

その結果、バウネットははしごをはずされた状態になって、最高裁まで持ち込んで判決をもらってみたものの肩透かし。「なんでこんな裁判やったの?」と失笑をかうようなことになってしまったのだと思います。そういうことになってしまったバウネットも脇が甘いと思います。

余談ですが、このケンカがきっかけになって、朝日は偏執的とも思えるぐらいに安倍バッシングに走りましたよね。記事や社説はもちろん、「アベする」なんて言葉をAERAで特集したりなんかもして、徹底して安倍政権を追い詰め、追い落としました。

そんなわけで、NHK、朝日、安倍・中川、バウネット、すべての当事者が痛みわけ、というなんともしまらない結末ですね。


by rio (2008-06-14 04:40) 

madoka

なるほど!詳しい説明をありがとうございます。モヤモヤしていたのが非常にスッキリしました。

NHK、朝日、安倍・中川(=自民党)…と並べると、この3者は明らかに権力、権威といったものに守られているように見え、長年強者の立場で戦ってきた古つわものであるように感じられます。
かたやバウネット。
確かに脇が甘い…。
権力も歴史も知名度もなし。経験値も浅いし。
必死すぎて空まわりしちゃってますね…。気持ちはすごくわかるんですが…。

私は、NHKや朝日や自民党が何か失態をやらかして世間からバカにされたり失笑されたりしてもなんとも思いませんが(むしろ率先して「やーいやーい!」って言いたい方)、バウネットのような団体が同様の破目に陥ってしまっているのを見ると、やはりどうしても「アイタタタタ…」と自分の痛みのように感じてしまうんですよね。
冷静な目で見れないんです。

バウネットに限らずこの手の団体は、もっと老獪さを身につけ、甘いところを突っつかれた時の備えを万全にしてほしいです。時間がかかっても、頑張ってほしいです。
by madoka (2008-06-14 15:48) 

rio

>madokaさん、今回の裁判をバウネット的立場でふりかえると「自民党はもちろん、NHKも朝日も信用してはならない」という教訓になると思います。

なにごとか主張をしようという団体・個人は、マスコミをもっとしたたかに利用(=踏み台)にする発想が必要ですよね。でないと今回のようにもてあそばれたような形になってしまいます。落とし穴は「敵」だけが掘っているとは限らないんですね。

余談ですが、今回の判決の報道にからんで、涙の記者会見をしたNHKのディレクターが、いまは私大の教授になっていることを知りました。告発会見をしてNHKをやめざるを得なくなったことは容易に想像つきますが、そこは”みなさまのNHK”(謎)。一般人のように路頭に迷ったり、極貧生活に陥ったりはしないんですね。したたかです。さすがです。
by rio (2008-06-14 16:47) 

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